10.25(火) 平成28年度 文化庁映画賞贈呈式
文化庁では、我が国の映画芸術の向上とその発展に資するため、文化庁映画賞として、優れた文化記録映画作品(文化記録映画部門)及び永年にわたり日本映画を支えてこられた方々(映画功労部門)に対する顕彰を行っています。本年度の文化記録映画部門と映画功労部門の贈呈式を実施します。

●会期:2016.10.25(火) 20:30~
●会場:グランドハイアット東京
●主催:文化庁
※招待制

[文化記録映画部門]受賞作品

文化記録映画大賞
『氷の花火 山口小夜子』
©2015「氷の花火 山口小夜子」製作委員会    ©Serge LUTENS
監督:松本貴子
製作:「氷の花火 山口小夜子」製作委員会

贈賞理由

世界中の人々に“東洋の神秘”と称賛されたモデルの山口小夜子が急逝して8年、残された遺品が母校・杉野学園で開封され、在りし日に関わった人たちが彼女について語る。遺品が息を吹き返すたびに山口小夜子という存在が今日的な意味をもって浮かび上がってくる。生前親交があった監督の追慕の念に発した本作は、彼女の表現者としての魅力に迫るとともに70年代から21世紀にかけてのファッション・舞踏界の優れた「時代の記録」ともなっている。
<中嶋清美>
文化記録映画優秀賞
『さとにきたらええやん』
©ノンデライコ、ガーラフィルム
監督:重江良樹
製作:ノンデライコ

贈賞理由

日雇い労働者の街、大阪市釜ヶ崎にある無料の児童施設「こどもの里」の日常を記録した作品。子供なら誰でも自由に出入りできる「里」には、さまざまな境遇の子が集まってくる。行き場のないかれらにとって、「里」は唯一の、息のつける逃げ場所であるかのようだ。映画はかれらの本音の言動や喜怒哀楽をじつに生き生きととらえており、同時に家庭環境の劣化や経済的貧困の恒常化、いじめや差別など、日本社会の今日的問題を浮かび上がらせるのにも成功している。
<奥村 賢>
『ふたりの桃源郷』
©山口放送
監督:佐々木 聰
製作:山口放送

贈賞理由

電気も水道も電話も通っていない山口県岩国市の山奥で暮らす老夫婦の25年を追ったドキュメンタリー。この夫婦は山奥の暮らしをこよなく愛し、執着する。みるからに仲良しのこの夫婦、そして、本作品は家族の幸せを考えさせ、羨ましくもさせられる。夫妻は亡くなるが、見終わって温かい気持ちにさせる、地域と密着している地方テレビ局でこそできた優れたドキュメンタリー作品である。
 
<山名 泉>
※< >内は執筆した選考委員名

[映画功労部門]受賞者

安藤清人(あんどう きよと)
映像照明
昭和41年大映京都撮影所に照明助手として入社。同47年には東映京都撮影所とフリー契約を結び、中山治雄、増田悦章ら東映の黄金期を代表する照明マンの元で研鑚を積む。『コータローまかりとおる!』(鈴木則文 昭59)で一本立ちして以降『二代目はクリスチャン』(井筒和幸 昭60)『極道の妻たち』(五社英雄 昭61)などの話題作で手腕を発揮。『わが心の銀河鉄道 宮沢賢治物語』(大森一樹 平8)『おもちゃ』(深作欣二 平11)『長崎ぶらぶら節』(深町幸男 平12)『千年の恋 ひかる源氏物語』(堀川とんこう 平13)『天地明察』(滝田洋二郎 平24)『利休にたずねよ』(田中光敏 平25)『海難1890』(田中光敏 平27)で受賞した日本アカデミー賞優秀照明賞は計7回に及ぶ。和紙を用いたソフトな光は安藤照明の特長として知られる。日本映画テレビ照明協会の副会長、関西支部長を務め、技術スタッフの東西交流にも重要な役割を担ってきた。
上野昻志(うえの こうし)
映画評論
昭和41年『ガロ』に社会時評的コラム「目安箱」を連載して評論家デビュー。映画、文学、写真、美術、漫画、音楽など、幅広いジャンルで活発な批評活動を展開し、大衆文化の地位向上と、映画の文化的評価の向上に果たした功績は大きい。主な著書、編書に『沈黙の弾機 上野昻志評論集』(昭46)『映画=反英雄たちの夢』(昭58)『鈴木清順全映画』(昭61)『肉体の時代 体験的60年代文化論』(平1)『映画全文 1992~1997』(平10)など。また、俳優や監督に較べ注目を集めることの少ない録音技師・橋本文雄に取材した『ええ音やないか 橋本文雄・録音技師一代』(平8)、プロデューサー・伊地智啓に取材した『映画の荒野を走れ プロデューサー始末半世紀』(平27)は、日本映画史の厚みを記録した貴重な取り組みである。日本ジャーナリスト専門学校の講師のちには校長を務め、後進の育成にも尽力した功績も高く評価される。
内田健二(うちだ けんじ)
アニメーション製作
昭和53年日本サンライズ(現サンライズ)に入社。テレビアニメ「闘将ダイモス」(昭53)の制作進行、「重戦機エルガイム」(昭59)の制作デスクを経て、同60年に「機動戦士Ζガンダム」のプロデューサーを務める。以後「ガンダム」シリーズを中心に、同社のアニメ作品を数多く手がける。劇場用アニメーションの代表作に『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(富野由悠季 昭63)『超劇場版ケロロ軍曹』(近藤信宏 平18)『カラフル』(原恵一 平22)『SHORT PEACE』(大友克洋 他 平25)など。平成20年サンライズ代表取締役社長に就任。同26年代表取締役会長、同26年日本動画協会理事長、同27年アニメジャパン理事長を歴任。日本動画協会では、文化庁委託事業「若手アニメーター等人材育成事業」の実施運営にもあたるなど、業界のリーダーとして後進の育成及び分野の発展に多大な貢献をもたらした。
奥原好幸(おくはら よしゆき)
映画編集
昭和49年日活株式会社に入社以来、40年以上にわたり編集の現場に従事してきた。平成4年には竹中直人(『無能の人』[平3])など新人や若手監督の個性を生かす絶妙な技術が評価され、初となる日本アカデミー賞優秀編集賞を受賞。その後も竹中組(『119』[平6]『東京日和』[平9])、相米慎二組(『お引越し』[平5]『あ、春』[平10]『風花』[平13])、崔洋一組(『月はどっちに出ている』[平5]『マークスの山』[平7]『血と骨』[平16])をはじめ、日本映画の第一線で手腕を発揮し、優秀編集賞の受賞は計5回に上る。その他の代表作には『ゴジラ2000 ミレニアム』(大河原孝夫 平11)『赤目四十八瀧心中未遂』(荒戸源次郎 平15)『父と暮せば』(黒木和雄 平16)など。同24年よりフリー。これらの業績に加え、永年にわたり日本映画・テレビ編集協会理事、日活芸術学院講師を務めるなど、分野への貢献は多大である。
櫻井 勉(さくらい つとむ)
映画製作
昭和44年近代映画協会制作のテレビシリーズ「新藤兼人劇場」に製作進行として参加したのを振り出しに、数多くの日本映画で製作主任、製作担当、ラインプロデューサー、プロデューサーを担当して現在に至る。代表作には『婉という女』(今井正 昭46)『讃歌』(新藤兼人 昭47)『金環蝕』(山本薩夫 昭50)『人間の証明』(佐藤純彌 昭52)『居酒屋兆治』(降旗康男 昭58)『乱』(黒澤明 昭60)『雨あがる』(小泉堯史 平12)『紙屋悦子の青春』(黒木和雄 平18)など。永年にわたり映画製作の現場で縁の下を支える黒子に徹しながら、巨匠たちの困難な要望にも応え、限られた製作予算の中で現場の環境改善に努め、作家たちの創造性を最大限に発揮させるための努力をしてきた。和田倉和利、甘木モリオ、森賢正ら現在の日本映画をけん引するプロデューサーを育てるなど、後進の指導に力を注いだ功績も大きい。
多良政司(たら まさし)
映画録音技術
昭和50年東京映画映像部に入社。同53年より東宝録音センター、同55年より東宝映像美術、平成17年からは東宝スタジオサービスで、スタジオのポスプロ業務に従事してきた。ミキサー、スタジオエンジニア、サウンドデザイン、サウンドスーパーバイザーとして、数多くの作品を手がける一方、モノラルからステレオ、アナログからデジタルへと変遷する技術と機材の導入に指導的な役割を果たした。『連合艦隊』(昭56)で日本初のドルビーステレオ音響制作に参加、『ゴジラVSメカゴジラ』(平5)で邦画初のドルビーデジタル版制作、『模倣犯』(平14)では日本初のHD24Pダビングを手がける。同22年の東宝スタジオ新ポストプロダクションセンター建設ではダビングステージと機材の構築にあたった。日本映画・テレビ録音協会では永年にわたり理事を務め、映画録音技術の向上のため情報の公開と普及に努めるなど、分野への貢献は多大である。
中野 稔(なかの みのる)
特撮・映像視覚効果
「特撮の神様」円谷英二に師事し、『孫悟空』(昭34)『日本誕生』(昭34)『モスラ』(昭36)『キングコング対ゴジラ』(昭37)など東宝映画の現場で合成技術を学ぶ。昭和38年円谷特技プロダクション(現円谷プロダクション)の設立を機に、光学撮影技師として「ウルトラQ」(昭41)「ウルトラマン」(昭41)、「ウルトラセブン」(昭42)「怪奇大作戦」(昭43)など空想特撮シリーズの合成画面を手掛けた。同45年飯塚定雄、高野宏一とデン・フィルムエフェクトを設立して独立。その後の代表作には、『日本沈没』(森谷司郎 昭48)『宇宙からのメッセージ』(深作欣二 昭53)『帝都物語』(実相寺昭雄 昭63)『まあだだよ』(黒澤明 平5)など。平成6年にはシネマディクトを設立。代々木アニメーション学院、日活芸術学院で講師を務め、若手の育成に尽力してきた功績も評価される。
森 卓也(もり たくや)
アニメーション映画評論
昭和30年代に市役所への勤務の傍ら執筆活動を始め、同33年には『映画評論』で映画評を発表。同誌に執筆した「動画映画の系譜」が注目を集める。特に、戦後ディズニーをはじめとする海外アニメーションが流入し、国産アニメーションの製作が本格化していくなか、いち早くこれらの研究に着目した一人として、数々の先駆的な書物を著した。代表的な著作に『アニメーション入門』(昭41)『アニメーションのギャグ世界』(昭53)『シネマ博物誌 エノケンからキートンまで』(昭62)『アラウンド・ザ・ムービー』(平1)『映画 この話したっけ』(平10)『映画そして落語』(平13)『定本アニメーションのギャグ世界』(平21)など。30年間にわたる新聞の連載をまとめた『森卓也のコラム・クロニクル1979−2009』が今年刊行された。愛好家のみならずクリエイターや後進の研究者たちにも大きな影響を与え、落語、芝居まで幅広い分野をカバーする執筆を通して、芸能文化全般の普及啓蒙に寄与した功績も高く評価される。
森田清次(もりた せいじ)
アニメーション編集
昭和46年より日放で勤務の後、同48年竜の子プロダクション入社。同50年フリーの編集マンとして独立。同61年森田編集室を設立、現在に至る。「けろっこデメタン」(昭48)「昆虫物語 新みなしごハッチ」(昭49)など竜の子プロ初期作品から「機動警察パトレイバー」(平1)「機動戦士ガンダムSEED」(平14)まで、数多くのテレビアニメの編集を担当し、永年にわたり第一線で活躍を続けてきた。特に平成23年に他界した山﨑統氏との関わりが深く、代表作「ブラック・ジャック」(平5~)は高い評価を受けている。劇場公開作品には『ドラえもん のび太の恐竜』(福冨博 昭55)『天使のたまご』(押井守 昭60)『ぼくの孫悟空』(杉野昭夫、吉村文宏 平15)『劇場版NARUTO-ナルト- 疾風伝 絆』(亀垣一 平20)など。作品の演出意図を明確に受け止め、コマ単位を見極めるきめ細やかな技術でキャラクターやシーンの雰囲気を醸成しながら、作品に生命を吹き込む手腕は高く評価されている。

[平成28年度 文化庁映画賞 選考委員]


【文化記録映画部門】
奥村 賢(いわき明星大学教養学部 教授)
谷川建司(早稲田大学政治経済学術院 客員教授)
戸田桂太(武蔵大学 名誉教授)
中嶋清美(公益社団法人映像文化製作者連盟 事務局長)
濱崎好治(公益財団法人川崎市生涯学習財団 川崎市市民ミュージアム学芸室 学芸員主査)
山内隆治(東京大学 客員研究員)
山名 泉(すかがわ国際短編映画祭 実行委員)
【映画功労部門】
青木眞弥(株式会社キネマ旬報社 キネマ旬報編集部 部長)
金勝浩一(映画映像美術監督/協同組合日本映画・テレビ美術監督協会 副理事長)
小出正志(東京造形大学 教授/日本アニメーション学会 会長)
佐々木原保志(協同組合日本映画撮影監督協会 副理事長/大阪芸術大学映像学科 教授)
土川 勉(SKIPシティ国際Dシネマ映画祭 ディレクター)
(敬称略・氏名50音順)